動物看護士が足りなくなる日までのカウントダウン

動物病院の経営を始めて驚いたことの一つに、動物看護師の給与水準の低さ、労働環境の悪さがあります。給料相場というのは基本的に病院が儲かっている、儲かっていないとか、経営者が有能無能で決まるものではなく、大きくは「相場」で決まります。動物看護師の給与が低いということは、「なりたい人が多すぎる」ということが背景にあると考えられますが、その状況が大きく変わるかもしれません。

国家資格になる動物看護師

前提条件のおさらいとして、動物看護師は今後、国家資格化されることが決まっています。いま現在まで民間資格しか存在しておらず、無資格でも従事することができます

そのため、「動物看護師になりたい!」と思えば、採用してくれる動物病院さえ見つけられればすぐにでもなることができます。動物にかかわる仕事をしたいという人はとても多いですし、例えばトリマーのようなペット関連の人だけでなく、まったくの異業種から転職したいと希望する例も多くなっています。

しかし、国家資格化されることで、事情が変わります。

国家資格を持っていることで高く評価される職種に変わる(はず)

農林水産省のウェブサイトによると、2022年12月からは、国家資格を持っていないと「動物看護師」と名乗ることはできません。紛らわしい名称もNGとされているので、「動物看護士」も駄目でしょう。

現在動物看護師をしている方のほとんどは国家資格の受験資格があると思われるので、そのまま受験し、合格すれば問題はありませんが、今後未経験で、特定の大学や専門学校を卒業せずに動物看護師になるのはかなり厳しくなると考えられます。

そのため、各動物病院で「動物看護師」は限られた有資格者になるため、給与相場も必然的に上がることになるだろうと考えられます。

動物看護師の求人が獣医師並みに難しくなるかもしれない

現在、獣医師の求人は非常に難易度が高いです。一方で、それと比較したら動物看護師の求人はかなり易しいのですが、今後はそうではなくなるかもしれません。今後、特定の学校を卒業して動物看護師の資格を取れる人数は、おそらく2,000~2,500名/年位になりそうです(出典・下記引用)。

コアカリキュラムを履修することのできる教育機関は4年制大学が8校、専修学校が 68 校である。(中略)直近の平成 30 年度試験では、受験者 2,333 名に対し合格者は 2,017 名

また、動物看護師の勤続年数はその労働環境の悪さからか、非常に短いものとなっています。

20代と 30 代で9割を占め、勤続年数5年以下が6割を占める

獣医師は現状、毎年1,000名程度が卒業し、資格を取ります。それを公務員、大動物診療(牛・馬等家畜)、小動物診療(一般の動物病院)等で奪い合う構図になっています。動物看護師も、今後どんどん辞めていってしまう状況が続き、しかも年間2,000名ほどしか輩出されないとなると、各病院で人材の獲得競争が激化し、給料など待遇面が向上していくと考えられます。

20年、30年後のキャリアを見られる仕事になるか

動物看護師と獣医師、またはその他の職種との業務の担当は下記のように整理されています。現在はその線引きがあいまいな動物病院が多く、生産性が高まらない原因になっています。それと同時に、動物看護師の担当分野を追求し、専門性を付けることで伴侶動物の治療に貢献できる幅が広がることが重要です。

そうなることで、スキルアップ、キャリアアップし、20年後、30年後も安心して働けるキャリアパスを提示できる。そういった動物病院作りが今から必要ではないかと思います。