動物病院で上場する企業が増えそうな件

動物病院で上場している企業と言えば「日本動物高度医療センター」です。株価40~50億円、売上高30億円弱、2次診療ができる高度な医療設備を備えた病院を名古屋、川崎、東京に持ち、2022年には大阪にも新設。子会社には画像診断をメインにした施設を数件持っています。

中規模、大規模病院が増えている

動物病院は右肩上がりで増えています。動物病院はおよそ7割が「1名獣医師」の小型動物病院が占めていますが、増えている動物病院は実は2名以上の病院がほとんどです。1名動物病院も開業は引き続き増えている肌感はありますが、うまくいかない、廃業が多いなどの理由で純増が少なくなっているのではないかと考えられます。

おそらく1人獣医師の開業、経営はどんどん厳しさを増しており、今後は複数人による企業型動物病院が主流になっていくでしょう。

投資家からの出資による動物病院拡大が増えている

動物病院の拡大は、初期費用がそれなりにかかります。例えばコンサル業やITシステム開発業は、非常にスモールなスタートを切れますが、動物病院を作ろうと思ったら一般的な小規模なもので3.5~4千万円くらいかかることが普通です。CTやMRIを導入しようとか、3~5名くらいの獣医師でスタートするなどの場合は6~8千万円程度の投資がかかるでしょう。

その動物病院を5個、10個作っていこうとなると簡単に数億円単位のお金がかかるわけですが、その資金を銀行融資だけで得ようとするのは簡単ではありません。展開スピードを上げるため、第三者割当増資という手段を使って投資家からも資金を集めるとスムーズになります。最近話題のWolvesHandsグループさんや、動物医療センターPecoさんは、そういった手段で数十億円単位の資金調達を行っているようです。

投資家からの調達は返済ではなく「出口」が必要

銀行融資は「返済」が必要ですが、投資家からの資金調達は原則返済が不要です。その代わり、投資家は株式を受け取り、その株式が高く売れることを望みます。これが株式の「出口」であり、投資家から資金調達する以上、この出口を必ず意識する必要があります。

ではこの出口にはどんなパターンがあるかと言いますと、ざっくり2パターンあります。①上場、②M&A(株式売却)です。日本では②がまだまだ少ないこともあり、多くの投資家は①を主たる目標において投資することがほとんどです。

つまり、WolvesHandsグループさんも、動物医療センターPecoさんも、ほぼ間違いなく上場を目指して動物病院経営をしていると考えられます。

上場してもいいことばかりではない

とはいえ、経営者にとって上場とは良いことばかりではありません。常に株主からの圧力がかかり、それゆえに短期的な判断をしやすくなる、など事業に対してそもそものマイナス面も指摘されます。過去、中長期的な経営視野を持つために上場廃止した企業もあります。また、上場しても社長は自分の持ち株をあまり売れない(売ると外部株主から顰蹙を買う、将来性を危ぶまれるなど)など、経済的なリターンも多少限定的になることがあります。また、ガバナンスと言われる企業統治のコストもかかります。

上場企業が増えると業界の底上げと活性化につながる

とはいえ、業界にとって、特に動物病院の業界にとって上場する企業が増えることは大変すばらしいことだと思っています。上場した会社というのは、株主保護の観点から法令順守等に対して厳密に監視される立場にあり、ガバナンスがかなり強化されます。これは直接的に「社会的信用」に繋がります。動物病院が労働基準法をはじめとする各種法令を守る体質になっていくことは当然望ましいことでしょう。

こうした「社会的当たり前」の実現がされるという底上げ以外にも、活性化という面でもポジティブだと考えられます。例えばWolvesHandsグループさんは、高度医療の2次診察病院から、一般的な診療を行う1次診療の病院まで幅広く保有しており、まさに「動物病院業」での上場をしていくと考えられます。一方で動物医療センターPecoさんは、動物病院は東京渋谷に1つあるのみで、IT・Webサービスを多数展開しています(個人的には動物病院増やすか通販やらないときつくね?と危惧してはいます)。

このように既存の上場企業(日本動物高度医療センターさん)とは違ったビジネスモデルで上場する企業が増えることは、今後の若手獣医師の刺激になり、新しいビジネスモデルの創出や、よりアグレッシブな病院展開のきっかけになるかもしれません。

ITとは違う、「既存ビジネス主体の上場」への期待

投資家(ベンチャーキャピタル等)から出資を受けて上場を目指す、というと、GoogleやFacebookをはじめ日本でもIT企業ばかりなイメージが強いかと思います。一方で、今回ご紹介した事例のように、動物病院という既存ビジネスであっても、数十億円という巨額のVCマネーを調達し、上場を目指すことができる。これは日本の産業において非常に重要だと思います。第五次産業革命に期待がかかる日本ですが、まずはそこにつながる一次産業企業やバイオ関連企業が、上場やM&Aなどで活発化していくという流れは、産業全体にとって非常に良いことかなと思います。