開業医の新しい働き方~ドクターの”働き方改革”28メソッド

開業医、特に動物病院の開業医というのは、とにかく休めません。なぜならば、ほとんどの病院には入院している伴侶動物がおり、休診日であろうと入院管理のために病院に行かなければならないからです。シフト制にすればよいと思われるかもしれませんが、日本の動物病院の7割は1人獣医師しかいないのです。

今回は「ドクターの”働き方改革”28メソッド(梅岡比俊先生著)」で特に参考になった部分をご紹介していきます。

「スタッフを教育する」という当たり前

うちの病院でもまさにスタートしていることですが、スタッフを教育して、仕事を任せる、ということができている先生は意外と少ないように感じます。特に、「自分ができる仕事の範囲が広く、看護師より早く、高い品質でできてしまう」というケースは多いと思います。そのため、「だったら自分でやってしまう」となります。こうなると、動物看護師は「それは先生の仕事で自分の仕事じゃないんだ」と思ってしまいますし、獣医師は獣医師にしかできない業務や経営業務にも追われ、果てしなく忙しくなってしまいます。

解決策としては、まずは業務分掌を明らかにし、できるだけ動物看護師の業務範囲を広げること(獣医師のやっていた業務を巻き取ってもらうこと)です。これにより、獣医師1名当たりの動物看護師の人数は増える傾向になりますが、病院運営としては正しい姿です。

そして、それぞれの業務にグレードを設けて、何ができるようになったらスキルアップと呼べるのか、そのために何をしたらよいのかを明らかにし、時間軸(例えばレベル1から2に上がるまでに3か月で頑張ろう、のようなもの)を設定して取り組ませる、病院として支援する必要があります。

獣医師、動物看護師以外の職種を雇用・育成する

事務をはじめとしたバックオフィス、そしてクラークの採用、育成をすることで業務の生産性はさらに上がります。また、獣医師の業務を巻き取った動物看護師の負担も大きく減ることに繋がります。

もちろん、開業当初からこういった体制を作ることはコスト負担的に不可能ですので、徐々にそろえることになります。例えば当院では、バックオフィスのスタッフは相当な規模になるまで雇用しないと決めています。一方で、そういった業務は顧問税理士、顧問社労士の先生たちにどんどんお任せする体制を取っています。そうすることで、顧問費用は拡大しますが、専任スタッフを採用するほどのコストはかからず、スピーディかつ品質高く業務が進むことになります。

クラークに関しては動物病院ではあまり見かける存在ではありませんが、当院としても1~2年後を目途に導入を検討していきます。

ワーク・ライフ・インテグレーション(ワークライフバランスを超えて)

ワークライフバランスはよく耳にしますが、ワークライフインテグレーションというのは初めて聞きました。大変すばらしい考え方で、ワークとライフを分けてバランスを取るのではなく、インテグレート(統合)することで相互作用が出て、お互いが向上しあう、というようなイメージの概念です。

ただし「実際に統合するってどういうことなのか」とか「それを嫌がるスタッフがいる(というか多い)のではないか」という懸念は残ります。

私はワークライフインテグレーションとは、「働き方の選択肢・多様性の確保」であると解釈しています。また、ワークライフインテグレーションの実践には、ワークライフバランスが土台となる必要がある、つまりワークライフバランスの進化系がワークライフインテグレーションであると捉えています。

開業医に関しては確かに「仕事と生活を統合する」というのは当然のようにも思えますが、これがスタッフにまで浸透させられる概念になるかというと、業種ごとにかなり磨く必要がありそうです。

なぜ休めないのか→どうしたら休めるのか、を本気で考える

終わりに、私見ですが、開業した獣医師の先生たちは「休めないのは当然。先輩たちを見ていてもそうだったし、そういう業界だから仕方ない」という意見の方が多いように感じます。

それを見た後輩たちが「ちょっと自分たちは開業するのは避けたい…」と考えてしまうのも無理はありません。動物病院は全国で1.1万以上あり、これ以上増える必要があるのかという議論もありますが、ともかく獣医師のキャリアに影を差していることは事実です。

獣医師というのは本来非常に夢のある、社会貢献性の高い仕事です。一方で最近は、高校生が進路を先生に相談したときに「獣医師はやめておいたら…」と止められるということも聞きます。獣医師という仕事を引き続き素晴らしい仕事で在れるようにできるのは、現場に携わる僕ら一人一人。まずは「どうしたら休めるのか」という持続可能な人生の在り方の実現に向けて第一歩を踏み出していきたいですね。