僕は法務、経理、税務など、「総務部」とか「管理部」と言われる類の仕事が非常に苦手です。しかし、会社を起業してすぐのころは、特に社長はそのあたりの業務を一手に引き受ける必要があるでしょう。特に煩わしいのが社員一人目が入社したときで、従業員は一人でもいれば社会保険等々、いろいろな手続きが必要になります。
しかし、社長の工数が「管理」に取られてうまくいく起業というのは本来あり得ない姿です。なぜなら、車の運転に例えるなら社長の仕事はアクセルを踏むこと(事業推進)と、ハンドルを目的地に向かって切ること(ビジョン)であり、管理業務は空調だったり椅子のシートの調整だったり、ととらえられるからです。
業務委託費を「人件費」および「成果」で考える
起業したころ、社労士、税理士への業務委託費用が重くのしかかり、「少しでも自分で」となることが多いと思います。僕もその気持ちは非常によくわかります。今まで数社の起業をして、すべて「少しでも自分で」精神で、やろうとしては時間がかかって従業員に迷惑がかかったり、ストレスになって本業に悪影響を与えたりしていました。
一方で、社労士、税理士に業務委託できたはずの時間を本業に充てられていたら…ストレスもなく、収益を生む時間にできていたはずです。さらに、社長がやるよりも専門家である行政書士や税理士の先生方にやっていただいたほうが、早く、高品質です。
「総務社員を1人採用する」ことを考えると、かなり外注できる
総務・庶務をこなしてくれる社員が一人いると、かなり助かります。そもそも「何をどうやって専門家に外注するのか」まで巻き取ってくれますので、本当に社長は管理業務から解放されます。
一方で、そこに至る道のりはそこまで近くはありません。僕は総務専属の社員の採用は、従業員10名ほどが目安ではないかと思います。それまでの間、少なくとも社労士、税理士に外注するのは「従業員の入職・退職」と「毎月の決算」程度です。
また、総務社員を入社させて、仮に人件費が20万円だったとしても、社労士、行政書士への外注費で20万円を上回るということはほとんどありません。「書類そのまま転送するから、うまいことやって」くらいの丸投げであっても10万円あればお釣りがくることでしょう。
自分でやり続ける「重要機能」に集中する
社長は、自分の価値を最も発揮できる分野の事業に集中する。これが起業したころは最短の成長方法だと思います。人数が増えてくると、不得意であろうが採用業務やマネジメントに関与する必要が出てきますし、レポートラインが増えて従業員の対応・管理は必要不可欠になります。
しかし、10名以下の組織であれば、「自分の価値を生み出す時間を最大化する、その邪魔になる業務はできる限り外注、どうしても外注できないものは採用」でまずは組織作りしていくと良いのではないでしょうか。
共同経営者に求めるもの
「共同経営」や「共同創業」の是非は次回以降に譲るとして、特に「共同経営者」に求めるものは何でしょうか。僕は「事業のコア機能だが自分ができないもの」を持ったパートナーであるべきだと思います。そこには、かなりのスペシャリティが求められるはずです。
あまり似たようなスキルセットの共同創業、共同経営はうまくいかないのではないかと思います。例えば獣医師二名で共同経営している事例なんかだと、片方が拡大志向、片方が保守的だったりすると、どちらとも決断できず、つまり変化が生まれないため保守的な決断が優先されてしまうんですよね。また、役割として「俺のほうがやっている」的な思考に陥りやすいという罠もあります。
獣医師二名で、つまり似通ったスキルセットで共同創業する場合は、ビジョンの共有をやり切ること、できれば上下関係(どちらが決断に責任を持つ、つまりハンドルを持っているのはどちらなのか)をはっきりさせること、を事前に徹底する必要があるでしょう。
外注先に求めるのは、まずは「即レス」そして「ITツール活用状況」で判断
閑話休題。
では社労士や税理士に外注するとして、どこに外注すればよいでしょうか。一言に社労士、税理士、と言っても当然ですがどの職業もピンキリですし、相性もあります。
僕は、見極める最低限の要素として「即レスをしてくれるかどうか」を1つの基準にしています。レスポンスが遅い人は何事も後手後手になりがちです。この時代、スマホがあれば電車に乗っているときも、トイレにいる時も返信できます。それを強要するわけではありませんが、クライアントに対してレスポンスが早い、というのはその人の仕事への姿勢の表れの一つだと思います。
もう一つがコミュニケーションツールを含アプリケーションの活用状況です。税理士業務だとわかりやすいんですが、例えば「月次試算表はすべて印刷したものをお持ちします。データではPDFでしかお渡しできません」みたいな税理士事務所が現存します。現在はfreeeのようなクラウドアプリケーションが多数あり、そこでリアルタイムに相互にやり取りをして効率的かつ高品質なアウトプットが出せるようになっています。
実際、私が顧問をした会社の税理士事務所はなぜかデータをPDFでしかくれなくて、過去5年分の総勘定元帳の調査を行ったとき、データの並び替えや集計ができなくて本当に困りました。こういった事業所が生産性が高い、中の人のスキルが高い、ということはあり得ません。
まとめ:起業時は月に4~6万円の業務委託費を出す勇気を
まず必須なのは税理士に会計業務を、従業員を採用するならば社労士事務所に労務を、業務委託することをお勧めいたします。給与計算、有給の管理なんかは結構面倒くさいものです。両方とも業務委託したとしても月に数万円ほどで済むはずです。あなたが会計業務、労務をやる時間に、同じだけの利益はきっと稼げることでしょう。起業時で苦しいからこそ、最も貴重な社長の時間を創出する、という視点を無理にでも持つと良いのではないでしょうか。