僕は仕事柄、人材紹介会社の人と話す機会が多いです。その際、人材紹介会社の人に「依頼する・投げる」みたいな会社は採用に成功しません。人材紹介会社の人に、うちの人事になってもらう、広報になってもらう、というようにならないと、求人の魅力が獣医師に伝わらない。これは当然のことです。人材会社の方が「この病院、すごくいいんですよ!ぜひ一度受けてみてください!」と言ってもらわなかったら採用はできないわけです。
そのために、うちの会社は「働きやすさ」と「働き甲斐」の両立にかなり力を入れているんですが、たまに「なんでここまでやるんですか?その背景にはどんな想いがあるんですか!?」と尋ねられることが多いので、そんな想いはない、ということを伝えておこうと思いました。
企業の判断は基本「経済合理的」である
みんな「想い」とか好きだなと思いますし、僕も好きですが、基本企業の判断はほとんどが経済合理性があってくだされています。例えば日本の古き良き「終身雇用」も「従業員の生活を生涯守ろう!」という経営者による熱い思いによって実現していたわけではありません。
あれは、その制度が当時の日本のビジネス環境に適していたから生まれ、普及繁栄した制度であって、完全に経済合理性から来ています。その後、ビジネス環境が変わったときにそこにキャッチアップできず、「古き良き」を聖典として手放せず「経営者の義務」とか言い出すのは老害の証拠のようなものです。
我々は非労働集約的ハイパフォーマンスを求められる世界にいる
そのほか、育休産休、残業減らす、週3日休日制度など、どれも「従業員が働きやすい職場って素敵だよね♪」というお花畑脳から作られるものではありません。完全にそのほうがパフォーマンスが高いから、そうしているんです。
なのに、そういった職場や働き方に対して甘えだというような経営者は、お前の勉強量が甘えだ、としか言いようがありません。
その背景には、まず人的資源がどんどん減っていき、経営におけるリソースで最も重要なのは「人」になるという事情があります。これはもう間違いない。人、モノ、カネ、情報、と言いますが、人が圧倒的に重要な経営リソースになります。
業務の大半は、AIやロボットがやってくれる世界になります。世界に名だたる企業である、ファクトリーオートメーションを手掛けるキーエンスの実績なんかを見ていると非常によくわかります。人間がわざわざやらなきゃいけない仕事は、急速になくなっている。そんな中、人間じゃなきゃできない仕事ができる人が強く求められる世界になるのは当然のことです。そんな人材を集めるため、企業はやれることを徹底してやる。まさに「The War for Talent」の世界そのものです。
採用成功に必要なのは「構造化」と「母集団」
そんな中、僕が学んだことがあります。それは「人は、面接で人を見極められない」ということです。これはもう、基本無理だと諦めていたほうが良い。そのうえで、せめてできることをやる。その最たるものは「自社に合わない人を見分ける仕組みを作る」ことです。
日本は世界でも特に労働者が守られている国ですから、採用した後に「あ、この人、うちに合わないな」と思っても当然なかったことにはできません。その状況はお互い不幸なことで、そうならないためには採用に最大限力を入れるべきです。採用の失敗は教育では取り返せません。
そのために必要なのは、一つ目が「面接の構造化」です。たまに「人を見る目がある」という、Giftを持った人がいます。しかし、ほとんどの人は残念ながらそのGiftを持っていません。ある程度訓練できますが、例えば僕のように関係ない業種から動物病院の経営に関与したケースなんかだと、その知見すら大して役に立たなくなったりします。しかし、面接を構造化する、簡単に言うとテンプレート化すると、ぐっと対象が可視化されます。「なんとなくいいな」ではなくて「この質問に、こう答えたから良い / 悪い」とはっきりと評価できるようになるのです。
しかしこれだけでは不十分です。採用を成功させるにはある程度以上の母集団が必要です。なぜなら、できる限りベターを目指すには、その分母が多ければ多いほうが良いからです。人との出会いは一期一会でそれぞれが大切ですが、ビジネス面接はどうしてもドライな側面が必要です。
母集団が少ないと、採用に妥協が生まれます。これは最悪です。採用は妥協してはいけません。忙しくても、業務が回らなくても、誤った人を採用するよりはマシです。
結論:働きやすさと働き甲斐を創ることは経済合理的であり、経営の重要課題である
だから僕は、熱い想いがあって働きやすい職場環境や、働き甲斐のあるキャリアパスを作っているわけではないんです(とはいえ人一倍想いはありますが、優先度はやはり合理性が上です)。
一生懸命な、誠実な人と、長く仕事を続けたい。それを可能にするために働きやすい環境を作り、働き甲斐のあるキャリアパスを作る。逆に言うと、これ以外に採用の成功にできることって、露出を増やすとか、そういう小手先になってくるんですよね。小手先ももちろん重要なんですが、結局転職、就職というのは人生を賭けますから、相手も慎重だし本気です。それに応えてうちを選んでもらうには、経営課題として採用を重視し、その実現のために働きやすさと働き甲斐を両立させる。至極まっとうな話で、逆にこれに驚かれる世の中が早く終わればいいなと思います。